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2018年12月27日

新年号「ケンカツ」対談

新年号「ケンカツ」対談
ケースワーカーは社会的窓口 可能性に目を向けて

憲法25条で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」。自治体として、憲法に根ざした支援ができているか。この間の生活保護制度の「改定」がもたらす問題と自治体の今後の課題について、花園大学社会福祉学部教授の吉永純さんと、山科区役所生活福祉課でケースワーカーとして働く鈴木薫子さんが対談しました。

生活保護は「市民の権利」
明確にした小田原市

鈴木 昨年、連続ドラマで放送の「健康で文化的な最低限度の生活」が注目されました。吉永さんも制作に協力されたとお聞きましたが、こだわったところは?
吉永 漫画が原作のドラマ化にあたり、生活保護利用者の基本的人権を守り、揶揄しないことや、「受給者」ではなく「利用者」という用語を使い、生活保護を利用し、生活を立て直していく主体となる人としての位置づけを大切にしました。ドラマの題材はほぼ実在のもので、実際のケースワーカーの置かれている状況をリアルに再現し、主人公の新人ワーカーが、行政と利用者との板挟みに苦労しながら、利用者の思いをくんで成長していく姿がリアルに伝わるようこだわりました。
鈴木 ドラマで見た事例は、実際ほとんどあります。ドラマで、高校生がアルバイトの未申告で「不正受給」となり、全額返還を命じられるエピソードがありましたが、私も同じような世帯の担当経験があります。この間、生活保護制度の改定に加えて、現場は事務処理作業が増え続けています。制度の中身で行政的に何が問題ですか?
吉永 一つは最低生活費(保護基準)の「切り下げ」です。2013年から2020年まで引下げが続いています。物価が下がっているわけでもなく、生存権保障に逆行する政策です。二つ目は「締め付け」。保護費の返還・徴収に関わる業務が増えています。ワーカーは、制度と利用者との狭間で揺れながら事務処理作業にも追われ、ケースワークへの時間の確保が困難な状況です。
鈴木 効率よく実務をし、家庭訪問や支援業務の時間を確保するようにしていますが、時間外対応になることもあり、子育て中のワーカーなど、家庭事情とのバランスが厳しい実態があります。
吉永 2017年1月に発覚した小田原市のジャンパー事件の際、同年春に小田原市が検証委員会を設け、元利用者の方も加わり、当事者の声が反映される仕組みがつくられました。これは画期的なことです。職場実態も掘り下げて検証し、ワーカーの増員、研修の充実、専門職としての福祉職の起用を増やし、女性ワーカーの増員など、1年間でかなり変わりました。象徴的だったのは「保護のしおり」。それまでの、義務ばかりを強調し、制度の利用を萎縮させるような内容から、生活保護が権利であり、利用者の立場に立ったわかりやすい説明に改善されました。市民の権利である生活保護を守るという基本的スタンスを明確にし、ケースワーカーの労働条件や専門性を確保するための踏み込んだ改善は、自治体の先進モデルになっています。
ドラマの話に戻りますが、ドラマに出てきたような職場の雰囲気は重要です。ベテランの先輩がいて、すぐに相談できるような職員構成や、職場仲間と問題を共有し、協力し合えるような職場づくりは、自治研活動を活発にすることにもつながります。

人と人のかかわりを糧に支援できる仕事

鈴木 各職場で福祉職が支援に悩んでいたことから、若手中心に、今年度から福祉分野にいる仲間に声をかけて月1回、勉強会を開いています。
吉永 堺市でも、若手職員の研究活動がもとになり、行政として保護世帯の大学進学調査を行い、問題が明るみになりました。現在、生活保護世帯の子どもが大学などに就学した場合、その子の保護は廃止されます。しかし、子どもの貧困対策に反するこのような扱いは、厚労省も一部手直しせざるを得なくなり、大学などへ進学する場合の「進学準備給付金」制度の新設につながりました。保護世帯での大学進学は認めないという国の基本線は変わっていませんが、一歩前進です。今回のような地道な研究活動が国の政策を変え、保護法改定に結実しました。市民に身近なところで仕事をしている自治体職員の研究活動が、国の法律も変えたのです。自治研活動の重要性にもつながるといえます。
 ケースワーカーの仕事は、人と人とのかかわりを糧にして人を支援できる仕事。ワーカーの支援で、劇的に状況が変わることもあります。一筋縄ではいきませんが、制度から問題を見るのではなく、問題から制度を見て、制度をどう使えば解決に近づくか、利用者の側に立って、問題を見る視点を大事にしてほしいですね。
鈴木 孤立した利用者も多く、ケースワーカーは社会的窓口になっている場合もあります。困難もありますが、利用者との信頼関係を築いていく中で、一進一退しながらも就労に結びつくこともあり、感謝される言葉がモチベーションにつながります。経済的自立だけでなく、社会的、生活的に自立した時、「あきらめず、支援してきてよかった」と、やりがいを感じます。できないところでなく、可能性に目を向けて、目の前で起こっている事実の奥を見るように心がけています。解決の専門家として、問題の絡まりを解きほぐしていけるワーカーになりたいです。