【北陸新幹線延伸問題】住民の意向に関係なく進められる 巨大公共事業
北陸新幹線延伸計画を考える
北陸新幹線の延伸計画は、2022年4月の京都府知事選挙の時に新聞などで取り上げられたことをきっかけにクローズアップされ、環境や財政面など大きな問題が浮き彫りになっています。
「北陸新幹線延伸を考える右京の会」の代表への取材を通して、問題はこの計画自体が法律の観点から見ても大変強引で、危険な計画だということが明らかになりました。
全国新幹線鉄道法とは
北陸新幹線延伸計画は「全国新幹線鉄道整備法」という法律に則って進められます。
この法律は1970年5月18日に公布され、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図ることを目的としたもので、国土交通省が所管しています。
新幹線事業は複数の都道府県にも及ぶ巨大な公共事業ですが、その際に、この法律には事業計画の内容を計画ルートの沿線住民に公表し、住民合意で事業を進めるという仕組みがありません。
例えば、高速道路などの事業では、ルートなどの計画内容は、住民説明会で示されます。
これは、「都市計画法」という法律に則って事業が進められているからです。説明会で、計画内容が住環境に悪影響を与える恐れがある、住民として納得できない場合などは、計画の撤回や変更を求める反対運動が起こることもあります。
しかし新幹線の事業は、住民に了承を得なくても計画を進めることができます。
現時点でオープンになっている情報も少なく、延伸計画の問題点を訴えるチラシなどで示されている図は、ルートを示したものではなく、事前の環境調査をする区域の図にすぎません。
具体的な内容は環境影響調査などがすべて終了し、実際工事が始まる直前の事業説明会で初めて明らかになります。
しかし、その説明会も、環境調査の報告だけとなるため、住民からルートの詳細や残土の処分についてなどの質問には回答はありません。
納得できない住民によって説明会が混乱したとしても、そのまま粛々と手続きが行われ、次の“環境影響評価「評価書」”が作成、公表されます。その後ほぼ内部手続きで事業本体の「工事実施計画の申請・認可」がおります。
そこで初めて建設予定地の住民を対象に事業説明会がひらかれ、ルートや工事のために必要な立坑(直径30mの巨大円筒から、土砂搬出や掘削機が搬入される)建設位置などの詳細が示されますが、この説明会では、すでに決定した事業計画の説明がされ、住民がたとえ納得できなくても、変更の余地がないものとなっています。
住環境面などで、一番影響を受ける住民の意見をすべて排除して巨大な公共事業を決定し、進めることができる。このような方法で北陸新幹線延伸計画は進むのです。
現在、環境影響評価の手続きとして、調査・予測・評価の調査段階にあります。
この調査は、現地の土地所有者の承諾を得て行うため、この間南丹市美山町田歌や京北では住民説明会が行われてきました。
しかしこの説明会で事業者は「新幹線事業の中身は調査終了後でないと言えないが、調査のための土地は借りたい」といった説明しか行わないため住民は納得できません。
「この土地がなぜ必要なのか答えられないのなら、土地を使うことは許可できない」というのが現在の美山町田歌の住民の考えということになり、環境影響調査は進んでいません。
この調査が終わらないと、事業者は環境に影響を与えない施工方法など検討することができず、次の段階である環境影響評価「準備書」を公表することができません。
問題は他にも
住民排除の延伸計画は、ほかにも深刻な問題をはらんでいます。
1つ目に、南海トラフ巨大地震が想定されていないことです。
北陸新幹線の目的を、方法書では「南海トラフ大地震により影響を受ける東海道新幹線への代替機能を担う」とありますが、終着駅である新大阪駅は、大阪市のハザードマップでは津波被害が想定されており、東海道新幹線の代替機能にはなりえません。また、ルートが想定される範囲には花折断層があり、その影響も十分考慮されているとは言えません。
2つ目に、北山など京都の景観が破壊される恐れがあります。
北山などには、工事のための巨大な立坑などが建設されます。京都市には自然風景も、貴重な文化的資産であると考え、将来の世代に継承するための「自然風景保全条例」があります。しかし景観に対しての検討はされておらず、大規模な景観破壊が予想されます。
3つ目に、膨大な建築費用の問題です。
ルートのほとんどが長大なトンネル工事となるため、建設費は2兆1000億円とも言われています。この建設費は沿線自治体が3分の1負担します。しかし、財政難を理由に市民に負担を押し付けて、職員に対しても賃金カットしている京都市のどこに、そんな財源があるのでしょうか。
今後、この問題は複数回にわたって掲載し、問題を掘り下げていきます。