お知らせ・ニュース

2014年11月12日

保育特報   なぜ急ぐ民間移管

保育の公的責任を放棄するのか

 「公立保育所は高コストだから」という理由で、すでに5カ所の京都市営保育所の民間移管が実施・予定されるなかで、さらに新たに6カ所の民間移管方針がだされました。あまりにも性急で慎重さを欠く民間移管方針に、保育士や保護者をはじめ、子ども支援に関わる関係機関、民間保育園などからも強い反発が起こっています。保育園map すでに移管がすすんでいる保育園では、同じ園のなかで公立と民間の保育士が在籍し、2つの労働条件が存在するといった、いびつな働き方があります。引き継ぎもコストが前提になるという条件のなか、保育の質を保つことも困難な状態があるといったことが、取材を通して明らかになりました。そうした検証も放置したまま、移管を推し進めることは、保育の公的責任の放棄としかいえません。
 また、保護者の声もまともに聞こうとせず、そこで働く保育士には、市政運営の決定事項にならって保護者説明をしなければならないといった締め付けもあります。
 公立保育所が地域の中で果たしている役割を改めて検証し、子どもの発達と成長に公的な責任を果たさせるように運動を強めましょう。

 

社会で子どもを育てる保育の本質を歪める新制度

社会福祉法人京都保育センター たかつかさ保育園 園長 藤井 修さん

公共財を儲けの対象に分捕り合戦しようと

 保育は公共財であり、それを市場化して、儲けの対象にして、公的な財を営利企業が分捕り合戦できるようにするというのが国と自治体がすすめている新制度の本質です。
 公共財として適正な保育料と、必要なスタンダードに基づいた水準を国と自治体は市民に提供する義務があります。この義務感が非常に薄れているのです。その義務を実践する場が公立保育所であり「これが世の中に必要なスタンダードだ」という現物を見せなければなりません。それを怠って「民間へ」というのは間違いです。
 子どもは未来の主人公です。その未来に対して社会が投資をして、親を支えていくことが重要です。イギリスでは、民間企業が保育を担う場合でも、国民に開かれた公的な評価基準をつくり、その査定結果をインターネットで公表し、社会の責任を明確にしています。
 地域にある保育施設は単に子どもの保育だけでなく、親の就労支援も目的にして多機能化しています。親の職業訓練や、移民への英語教育などにも取り組み、その間も保育園で子どもを預かります。保育の先生だけでなく、ケースワーカーや、就労支援の訓練士、看護師・助産師等、多様なソーシャルワークを行うセンターとして位置づけているのです。そして学校教育へ子どもの発達プロフィールを送り学習支援に繋げています。貧困の連鎖を断ち切ることが、社会の構造的な政策として打ち出されているのです。日本はそれに比べると逆行しています。

保育にお金を掛けたくない京都市の姿勢

 09年に、京都市はプール制を改悪しました。プール制は配置基準と昇給財源を基礎につくられていました。昇給財源をなくし、ポイント制で各園の経営問題とされたために、経験豊富な保育士を雇い続けることが困難となりました。
 公立をなくす主たる理由が、人件費の安いシステムにしたいということ。それは、経験の浅い人にやってもらうことが望ましいということです。「日本一子育てしやすい都市・京都」と標榜されますが「市は保育にはお金を掛けたくありません」と言っているに等しい。
 いま、民間保育園では、かつてのような市から代替職員費が来る産休制度がありません。プール制の改悪のときに補助がなくされたのです。就業規則上では産前産後8週を休めることになっていますが、その間は無給です。その代わりは健康保険による少ない給付金と一律の「お見舞い金」が支払われますが、一人ひとりの号俸にあわせると不公正です。これは復活させたい。
 「保育」は、「養護と教育の一体」という意味です。保育園には、貧困、虐待防止など家庭問題を福祉事務所や児童相談所につなぐ役割があるのです。社会で子どもを育てる制度には家庭を支えることを抜きに過度に「教育」を強調するシステムをつくってはなりません。

 

「子育て(しにくくなる?!)環境日本一・京都」を目指すのか

 京都市営保育所民間移管方針は、当該の保育士や保護者だけの問題ではなく、地域の子育て支援関係の職場からも懸念が強まっています。門川市長は「子育て環境日本一・京都」を銘打っていますが、京都市政の施策は逆行していると言わざるを得ません。
 子育て支援関係職場の組合員に話を伺いました。

充実した子育て支援から一転、「新規事業つくるな」

左京福祉事務所子ども支援センター
熊谷眞貴子さん  川上 睦子さん

 福祉事務所にある子ども支援センターは、地域活動員、育児支援活動員、相談員を嘱託職員が担っています。支援センターで働く、熊谷さんと川上さんにお話を伺いました。

公立保育所との連携は強み

 支援センターは、福祉事務所と公立保育所、保健センターの公的機関にとどまらず、児童館、民間保育園や地域の民生委員などと共に連携して、地域の子育て支援事業を活発に展開していますが、まさに地域で子どもを育てる実践をされています。
 公立保育所の民間移管方針については「様々な悩みを抱えた家庭が福祉事務所に相談に来られたとき、『緊急で保育所に預けなければならない』といった事態に対応できるのは、公立保育所です。特に障害や虐待などのケースがあった場合、民間ではその園の基本方針によって受け入れが決まり、多くは公立保育所が受け入れています。個々の家庭の状況に対して、しっかり対応でき、情報交換も共有しやすい強みがあります。お金が掛かるからといって、それだけで切り捨てていくのは、現実の保育所の果たしている役割も何もわかっていない」「公立保育所はそこに暮らす住民にとって子育ての拠点として位置づけられている。コストの問題ではなく、地域サービスを削るという問題になる」と指摘されます。
 特に子育て支援拠点事業の保育士の役割には、転入されてきた市民からも「京都市の子育て支援はとても充実しているんですね」と言ってもらえる程、実績を積み重ねています。「『拡充から拠点』の方針が出されるなか、毎日のように児童館や民間保育園に出掛け、連携をつくってきた成果です。それなのに、民間移管方針が出されると『新規事業はもうしないように』と言われる。利益目当てではなく、公立の保育所だからこそ、民間を巻き込んで子育て支援の観点で拡充し発展させてこられた実態を見てほしい」と語られました。
 子育て支援センターは地域に根付き、活動員は地域の顔となっています。嘱託職員といっても、正規職員と同じ公的な役割を担い、子育てに悩む市民にとっては欠かせない存在感をもって働いています。

公立のリーダーシップ発揮が求められている

児童福祉センター 津田 明彦さん

 児童福祉センターは相談件数が年々増加しています。今回の市営保育所の民間移管はどんな影響を及ぼすのか、分会書記長の津田明彦さんにお話を伺いました。

危惧される支援力低下

 10月10日発行の児童福祉分会機関紙「わらべ」には、児童福祉センターの移転問題とともに、市営保育所民営移管の見解が掲載されています。
 津田さんは「児童相談所の相談件数の増加や相談待機の解消には、地域支援の質の向上と、子どもや家庭の状況や利用者のニーズに合わせた支援をその場(地域)で行うシステムを確立・充実する必要があります。京都市は保育所の民営化を推し進めますが、危惧されるのはこれまで行ってきた発達障害のある子どもや、虐待リスクの高い家庭支援の質の低下です。公立の最大のメリットは、利益に縛られることなく手厚い支援ができることです。実際、児童相談所のケースワーカー経験者の保育士や、療育経験者の保育士なども保育所にいます。児童相談所との連携もあり、支援が必要な人たちに、地域の中でつながることができ、子育て支援にも力を発揮しています」と市営保育所の役割を述べられました。
 市の方針に対しては、「このまま京都市が単純に保育所の民営化を推し進めれば、地域支援の力が低下して、今よりももっと、児福センターに相談が集中してしまう。センターがパンクすれば、支援が必要な家庭が支援システムからこぼれ落ち、子どもたちが犠牲になるような悲劇が生じるリスクが一層高まると思います。このような危険性を当局は十分に認識しているのでしょうか」と指摘します。
 そして「子ども子育て新システムが始まるからこそ、安易なコスト論からではなく、公立保育所のリーダーシップを発揮していくべきです」と行政が果たすべき方向性を語られました。

地域から不幸な親子をつくらない

左京区子育て支援拠点事業担当
山野 暁子さん(養正保育所) 長手 淳子さん(修学院保育所)

 左京区には錦林、養正、修学院の3つの市営保育所があり、子どもの数が多く、広範囲に及ぶ地域のなかで、拠点事業を関連機関との連携を築くなかで発展させてきました。今では、地域の子育て支援サポートにとって欠かすことのできない役割を担っています。
 今回の移管方針では、錦林、修学院の2カ所が対象となり、不安が強まっています。左京区の拠点事業担当保育士の長手さんと山野さんに伺いました。

孤立をなくす地域とのかけはし

 「拠点事業を通して、地域を巻き込んだ子育て支援を強めてきました。養正と修学院では毎日10~15組の家庭が保育所に遊びに来られる。その対応をしているのは所長・副所長や、クラスを持っている保育士です。大変ななかで、積極的にやっています。拠点担当は地域に出掛けることが求められています」
 「拠点事業の役割は、子育てに悩む親と地域を繋げる架け橋となっています。無理矢理ひっつけるような接着剤ではなくて、お母さんが自ら橋を渡ってもらう、地域とつながりをつくってもらうように、コーディネートしていく仕事です。一人ひとりの親子に寄り添い理解して、その家庭にあった児童館等と繋げていく」といった丁寧な援助をしておられます。
 また「児童館やサロン、民間保育園とも協力しながら『子育てが楽しくなる』『不幸な親子をつくらない』というそれぞれの想いで、地域一体となって網の目で孤立を防ぐ、見守りの役割もある」と語られていました。

利益追求ではできない網の目の支援

 丁寧な支援ができるのは公立だからこそできます。「福祉や子育て支援事業は、お金も人も時間もいる事業です。3カ所の保育所で拠点担当が2人ずつ配置され、丁寧に地域に出掛けることができているから、充実させてこられた。それが1カ所になるとどうなるか。漠然とした不安でいっぱいです」と話されます。
 これまで積み上げてきた子育て支援事業は、保育所内の事業にとどまらず、地域の子育て関係施設やサロンでも子育て教室や講座なども開かれ、進化しています。また地域との連携で子どもを育てるという観点は誇るべきことです。拙速な民間移管で、子育て支援施策を後退させてはいけません。