メリット論の厚化粧にかくされたマイナンバー制度の素顔
昨年10月からスタートしたマイナンバー制度は、各世帯に個人番号を通知する番号通知カードの発送が大幅に遅れたほか、個人番号入りの住民票が誤って発行される事例が各地で発生するなど、混乱続きです。
スタート直前の臨時国会では戦争法強行の陰に隠れるように、銀行口座情報との紐付けや企業へのビッグデータ提供などを可能にする改正マイナンバー法が成立しました。
トラブル続出のマイナンバー制度を検証します。
トラブル続出で大混乱
役所の広報媒体などには、「メリットいっぱい、マイナンバーカード」「コンビニで証明書が取れるようになります」などの宣伝が踊ります。しかし、カードの普及と制度の利用拡大に躍起になる一方で、満足な準備態勢ができていない政府の実態が露呈されています。
年明けから、住民の申請を受けた個人番号カード(マイナンバーカード)の交付が開始されていますが、住基ネット中継サーバの障害などにより、カードの交付は大幅に遅れ、正常化の目途は立ちません。
京都市に限らず、全国の自治体で起こっていますが、自治体の事務処理に問題があるわけではありません。住基ネットシステムを中心としたマイナンバー制度を運営している機構や、制度を推し進めている政府の責任は明確です。
なぜ急ぐのか?
なぜ制度拡大を急ぐのでしょうか。法律には、「行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保」とあります。社会保障給付をできるだけ削減し、税収をできるだけ増やすことを目的としています。
しかし本質的な狙いは、マイナンバー制度に関わる民間企業の利益を最大化することです。役所の業務では、膨大なシステム構築、カード等の作製・印刷、大半がアルバイトや民間派遣社員が担う役所の受付等スタッフの人件費やコールセンターなどが代表的に挙げられますが、これらの業務の全市町村分をお金に換算しただけでも莫大な金額です。コンビニで公的証明書を発行することになれば、それにかかる業務委託費なども半永久的に発生します。さらにこの上に、マイナンバー制度を利用した民間の多様なサービスが加わります。
金額もわからないほど莫大な税金を投入して、また、自らの個人情報を広大な民間市場に漏洩する危険を冒してまで、本当にマイナンバー制度が必要なのかどうかを考え直さなければなりません。
問題に上塗りしたメリット論
政府は「メリットいっぱい」とさかんに宣伝します。「行政手続きが簡略化されます」という甘言がその一つです。例えば、児童手当の申請などの手続きには、所得証明や健康保険証の写しなどの添付書類が必要ですが、それらが省略できるようになる。国民年金保険料の減免申請をするために、区役所、ハローワークに行って必要な書類を受け取ったうえで年金事務所に行く必要がありますが、それが年金事務所だけで済むようになるということです。
煩雑だった手続きが簡単になり、一回で済むようになるので、便利になるかもしれません。しかしそんな手続きが一年に、あるいは一生涯に何度あるのか、その小さな便利を享受するために、重税負担や個人情報漏洩のリスクを背負わされていることを思えば、簡単には納得できません。
今からでも遅くないNOの声を
政府のスケジュールによると、来年7月から自治体も含めた情報連携が開始されます。しかし、既に年金情報の流出問題を受けて年金情報とマイナンバーとの情報連携は延期が確実であり、制度の基盤となる情報システム自身が大きな不安を抱えています。急にマイナンバー制度への対応を迫られている企業や個人事業主の方たちの負担も大きく、準備が追い付かない状態です。
制度廃止、無力化に追い込んでいく運動は今からでも遅くありません。